書評-本好きさんのコラム-:「傲慢と善良」辻村深月

 

一作目の書評を書くにあたり、もう長くファンとして読み続けてきた辻村深月先生の一作を選ばせていただきました。

 本書前半は西澤架という男性を中心に物語が始まります。彼は、東京在住、恋愛経験もそれなり、見た目はいわゆる結構イケメン、真面目に会社を経営していて、条件が整ったいつでも結婚ができそうな男性で、女友達は多いタイプの男性。大切にしていた彼女から結婚を迫られ、仕事とのバランスを考えているうちに彼女は別れを選んでしまい、引きずりながらも婚活を始めるストーリーですが、辻村流(偉そうにすみません)の細かい心理描写がなんとも言えずにリアルで、架のような男友達が身近にいたような気持ちにすらなります。そんな架と婚活アプリで出会った坂庭真実がこの物語のもう一人の主人公です。真実はもともと群馬の県庁で働いていた、どちらかというと真面目な女性。恋愛経験もあまりなく、控え目な印象の女性です。題名に使われている言葉は、架の傲慢さと真実の善良を描いているように思えていましたが、物語は歪みを経て反転していきます。

 後半の物語はこの真実を中心に展開されますが、またこの心の揺れ動く様子が、とにかく痛い。女性の感じる劣等感や、そこから湧いてくるプライド、そして傲慢さが上手く言語化されている辻村ワールドに後半はあっという間に巻き込まれて、気づいたら読了してしまう展開でした。

 「傲慢と善良」はジェイン・オースティンの「高慢と偏見」を文字っているとどこかで見ましたが、物語の世界観は似て非なるもので、なんとも言えない物語の暗さや、このスピード感がやはりファンを魅了するのだと思います。全ての登場人物の気持ちや言葉が丁寧すぎるくらいに表現されていて、ヒリヒリ痛く、きっと20〜30代の読者層に特に刺さる作品なのですが、何年重ねてもその世代に刺さる物語を描き続ける辻村先生が格好いい。そして、ファンの心を掴んで離さないのが、別の作品の登場人物がこの作品でも姿を表してくれたところ。歴代の作品を読んでいるファンにしかわからない仕掛けが散りばめられているのですが、それに気づいた時のなんとも言えない特別感は表現し難い喜びです。今回の作品も読後感爽やかに、2026年最初の本に選んだことをとっても満足しています。

 今後もこのような感じで、読んだ本の中から書きたいと思った本についてジャンルを問わず書評を書かせていただきたいと思います。本好きのみなさんや、あまり本を読む機会が少なく、何の本を読めばいいかわからない方、いろんな方の目に留まり、それが何かのヒントとなり、本を介した繋がりができればいいなと思う今日この頃です。情報交換、コメントもお待ちしております♪

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