書評-本好きさんのコラム-:「くもをさがす」西加奈子

 西加奈子先生といえば直木賞をとられた「サラバ!」が有名かもしれません。あとは「漁港の肉子ちゃん」や「ふくわらい」もずいぶん前ですがロングヒット作品かなと思います。
 そんな西先生のノンフィクション作品が今回書評を描かせていただく「くもをさがす」で、この本はご自身の闘病生活について書かれた本です。私は個人的に、泣かせる気だな・・・と感じてしまう映画や小説が苦手なので、闘病とか辛い感じの話かな、なんか苦しくなりそうだなと思うと手に取らないのですが、直感で「西先生のノンフィクションなら絶対おもろいやん」と思いました。(西先生の関西弁に便乗して笑)
 

 予想通りこの作品はただの闘病日記ではありませんでした。もともとグローバルな視点をお持ちの作者ですが、今回は舞台がカナダ・バンクーバー。カナダで乳がんの宣告を受けるところから始まりますが、登場人物の描写に命があってありありと情景が浮かびます。私が映画監督だったらすぐに映像化したくなってしまうような言葉たち。西先生の、クセがなくそれでいて表現が鮮やかでストレートな文章は嫌いな人はいないのではないでしょうか。捻じ曲げた表現や過剰な描写がなくて、でもとても表現力あふれる文章にいつも惚れ惚れしてしまいます。

 この本の中心は当然、西先生の乳がんとの闘いなのですが、この本に広がる世界を見て、あぁ将来海外で生活をしたいなと感じずにはいられませんでした。カナダに住みたいわけではありませんが、日本を外国文化から見てみたいのです。日本では街中にあふれる扇情的な写真や性的な何かをにおわせるものが蔓延していて、その対象はいつも若い女性で、そのせいか「太るな」「老けるな」「ムダ毛をふやすな」とあらゆるNGを突きつけてくる。作者と同じく、扇情的なものから子供を守りたいと何度も思っていたし、「見え」ばかり気にする日本の価値観に辟易しています。
 本著では薬物中毒者についても触れていましたが、日本では薬物中毒者は快楽に溺れた怠け者というような扱いをされ、まるで現実には存在しない人間、価値のない人間のように好き放題非難、批判される。ルールを破った人間に対して排他的で傲慢的、嘲笑的な目を向ける日本文化に、この年齢になって違和感を感じるようになりました。その割に、性的虐待にはゆるいのはどうしてなのでしょうか。もちろん私自身もしっかり価値観が日本人なのですが、海外文化に触れるたびに、そういったことにとても違和感を感じるのです。自分が思っていた情緒深く品のいい日本はもう存在しないのではと感じることすらあります。
 
 すこし私の話に逸れてしまいましたが、本著の良さについてもう一つ書かせてください。本文に散りばめられた他の芸術家の言葉がまた素晴らしいのです。様々な方が書いた文章や詩や歌詞を引用している箇所があるのですが、西先生が今まで受け取ってきたたくさんの言葉を引き出しから折々に出してきては命を吹き込んでいて、知っていたはずの言葉も新しいものになるのです。本当に言葉を巧みに操る人だなあと、読んでいて感動するだけでなく、とてもおこがましいですが日本人として羨ましく感じてしまいました。
 
 乳がんの闘病記ではありましたが、文化のこと、医療体制のこと、病気のこと、様々な課題に気づかせてもらえる作品でした。ノンフィクション作品をあまり読まれない方もぜひ一読して下さい。必ず何か新しい景色が見え隠れし、琴線に触れるものがあると思います。

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